2018年度 第3回勉強会

情報社会がもたらす新たな労働~世界を動かすギグエコノミー~

江田学氏(株式会社Saleshub代表取締役)


 6月22日、日吉キャンパスにて、「情報社会がもたらす新たな労働~世界を動かすギグエコノミー」というテーマのもと、株式会社Saleshub代表取締役である江田学氏をお招きし、勉強会を開きました。Saleshubを通じて新たな働き方を提案している江田氏の講演を聞き、新たな働き方と今後の社会について考える機会となりました。

講師略歴


 埼玉県出身。大学1年次より複数の事業を手掛けるスタートアップに立ち上げから参加、営業部門を担当。その後、スポット情報に特化した場所探しのためのWebサービスを提供する株式会社deece(ディース)を設立。現在は株式会社Saleshubの代表取締役を務め、テクノロジーを駆使したビジネスマッチングサービスを提供している。

株式会社Saleshub立ち上げの経緯


 企業間取引(BtoB)の営業では「気合いのテレアポ」や「気合の飛び込み」が日常茶飯事である。これらは成功率が非常に低い上、高いノルマが企業から与えられることが多く、社員の精神的苦痛は大きい。一方で、知り合いを介して顧客を獲得する紹介営業では、「知り合いである」という信用があるため成功率が高く、関係者にとっての苦痛や不快感は少ない。この事実に着目して立ち上げられたのが、Saleshubである。企業と知り合いをつなぐ役割をビジネスとして成立させるビジネスマッチングサービスだ。ユーザーが紹介者となって、win-winな関係を築けそうなビジネス主体間にアポイントを設定し、商談が成立した際には、紹介者が「お祝い金」を得られるシステムとなっている。

  このSaleshubのシステムは、働き方改革や副業解禁といった現在の日本の流れにマッチしたサービスだと言える。Saleshubの登場によって、特定の資格や技能を持った人だけではなく、多くの営業マンに副業の道が開けることになりそうだ。

 

ギグエコノミーとは何か


 現在Saleshubのようなネット上のサービスが、多くの人に副業の可能性をもたらしており、ギグエコノミーの時代を導いている。ギグエコノミーとは、「インターネットを通じて個人が好きな時に好きな仕事を単発で請け負う就業形態」のことである。国内でギグエコノミーを提供している企業としては、転職支援仲介者のプラットフォームである株式会社SCOUTERや、人のビジネスとしての知見を提供できるスポットコンサル・プラットフォームである株式会社ビザスクが挙げられる。海外企業としては、民泊を提供するAirbnbや自家用車を一般客が乗り合わせる配車サービスUber、買い物代行や引っ越しの手伝いなどあらゆる仕事を一般人が代行する便利屋サービスTaskRabbitなどがある。

他の就業形態とギグエコノミーの違い


 ギグエコノミーと似た言葉として、シェアリングエコノミーやクラウドソーシングがあるが、少しずつ意味が異なる。

 

 シェアリングエコノミーとは、個人が保有する資産をシェアして利益を得ることである。モノをシェアするメルカリや、家という場所をシェアするAirbnbが該当する。

 

 クラウドソーシングとは、仕事を依頼したいクライアントの案件に対して、個人が得意分野に応じて仕事を請け負う仕事委託サービスであり、株式会社クラウドワークスが該当する。この形態は、仕事を請け負うクラウドワーカー側が価格を提示するので、クライアントにとっては安価な供給を選ぶことができる。しかし、クラウドワーカーにとっては価格競争激化というデメリットにつながることが予想される。

 

 これらの言葉の定義は少しずつ異なるが、1つのサービスに対し視点を変えることで複数の概念に当てはまる場合が多い。例えば、Airbnbは家をシェアするという面からはシェアリングエコノミーだが、ビジネスとして収入を得るという面からはギグエコノミーの側面も持つ。また、株式会社クラウドワークスも、仕事を委託する面ではクラウドソーシングであると言えるが、好きな仕事を好きな時間で行えるという面はギグエコノミー的である。

ギグエコノミーのメリットと課題


 ギグエコノミーのメリットは大きく3つある。

①時間的制約がないこと。好きな時に働くことができる。

②選択の自由があること。自分でやりたい仕事を選ぶことができ、強制されない。

③収入の最大化を図れること。副業として語られることが多いギグエコノミーは、本業に加えて収入を得る手段となり得る。

 

 一方で課題も存在する。インターネットを介したサービスであるため最低賃金が存在せず、現行の社会保障制度が適用されないことだ。働き方が自由になる反面、後ろ盾がなくなるのだ。時代に対応した制度の整備が望まれる。近年、アメリカではギグワーカー向けの保険が誕生しており、日本でも今後、徐々にギグエコノミーで働きやすい環境が整っていくものと期待される。

ギグエコノミーのインパクト


 今までの「会社に勤める」という就業形態が、「サービスに勤める」という概念へ変化する可能性を秘めている。クライアントとワーカーがプラットフォームで直接結ばれるので、クライアントは低い手数料でサービスを提供することができ、ワーカーは納得できる対価を得やすくなる。ただし、プラットフォーム企業としては、低い手数料でビジネスを成立させるために、大規模な運営が必須となる。

学生へのメッセージ


 講演の最後に、江田氏からこれからの日本を背負っていく私たち学生へのメッセージが贈られました。

 

「ギグエコノミーのような新しい労働形態が発展することで、プラットフォームを上手く活用できる人とできない人で二極化する可能性がある。自分で起業することはハードルが高いが、インターネットを介してお金を稼ぐ既存のサービスを利用することなら手軽にできるだろう。大学生のうちから新しい体験をしておけば、今後新たなサービスが出てきたときに挑戦することができるのではないだろうか。」

質疑応答


Q1. 手数料が少ないプラットフォームは、儲けが少ないのではないでしょうか。

A1. インターネットを介したプラットフォームは人手が要らないのが特徴なので、手数料が低くても人件費が削減できます。しかし、プラットフォーム全体が大きくならないと儲からないので、初期は赤字になってでも投資して可能性を広げることが必要です。そのため、ベンチャーキャピタルなどは億単位で投資する場合もあります。

 

Q2. Saleshubでいいコンビネーションを見つけて後は個人的につなぐ、という形でサイトをタダ乗りされてしまうことはないのでしょうか。また、偽りの商談で「お祝い金」を稼ぐなど、悪用されることはないのでしょうか。

A2. 現段階で全くないとは言えませんが、同一人物による複数件の疑わしい利用を検出できる仕組みを作っています。現状では質の良いサポーターに支えられている側面がありますが、今後はさらに悪用されにくいシステム作り進めていきたいです。

 

Q3. サービス開始時の登録企業やサポーターの確保、リピーターを増やすために行ったことを教えてください。

A3. サービス開始に際してはFacebookとプレスリリースのみ利用し、広告は使用しませんでした。しかし、「テレアポと飛び込みからおさらば」というフレーズが大きな反響を呼びました。リピーターを増やすためにユーザーインタビューや統計を多く取りました。その後はサポーター自身の口コミなどで広がりました。収入を得られることだけでなく、ビジネス主体を繋げる立場として責任とやりがいを感じることが、リピーターの多い理由だと思います。

 

Q4. 学生の時に起業したとのことですが、アイデアが出てきて起業したのか、ともかく起業してみたい思いからアイデアに先んじて起業の準備をしていたのか、どちらでしょうか。

A4. 大学時代の起業のきっかけは友人です。友人の考えが面白かったので、一緒に会社を立ち上げました。起業が目的の起業は勧めませんが、当時の仲間が現在数社目で成功するなどしています。色々なチャレンジをしている周りの人たちに今も刺激を貰っています。

所感


 インターネットを利用したギグエコノミーのサービスは、日本ではアメリカほどの浸透を見せていないようです。しかし、人と人のつながりが価値を生むという側面は、集団を好むと言われてきた日本人になじみやすいのではないかと思いました。ビジネスマッチングが営業マンの悩みを解決したり、人と人をつなぐ満足感を与えたりするなど、心理的な面からも価値を生みだしているという点が印象的でした。

 ギグエコノミーや事業内容のお話に加え、江田様ご自身の学生時代や起業体験のお話は大変興味深いものでした。メッセージとして江田様がおっしゃったように、何事も変化の激しい現代社会において、私たちは挑戦を含めて様々な経験を積むことが大切だと思いました。

 

  今回ご講演くださいました江田学様、ありがとうございました。

 

文責 法野聡美