2015年度 第3回勉強会

若者の政治参画と選挙制度

原田謙介氏(YouthCreate代表)

田中大輔氏(中野区区長)


 6月12日、日吉キャンパスにて「若者の政治参画と選挙制度」というテーマのもと、原田謙介氏(YouthCreate代表)と田中大輔氏(中野区区長)をお招きして勉強会を行いました。

 

略歴

・原田謙介氏

 大学3年時に、20代の投票率向上を目指し「学生団体ivote」を設立。その後、2012年に「若者と政治をつなぐ」がコンセプトのYouthCreateを設立し活動している。


・田中大輔氏

 1977年に中野区役所に入庁。2002年に中野区長選挙に立候補し、当選。現在4期目を務めている。

若者と選挙


 近年、若年層の投票率が低いことで若者の意見が政治に反映されにくい状態が続いています。このことについて、お二人の意見を伺いました。


(原田)私は「選挙に行かない≠政治に興味がない」だと思う。選挙に行かない理由として「どうせ自分の意見は通らない」、「政治には頼りたくない」などのように考える人がいることが挙げられる。政治に少しでも興味のある人が選挙に行きやすいように、工夫が必要である。


(田中)現在、赤字財政や社会保障費の増大などの社会問題が山積しているが、実際にその責任を負うことになるのは若年層である。厳しい現実を見据えた上で、それを明るい未来に変えていくような国づくりを若者には望んでいる。そのように考えると、若者にとって投票に行くのは当たり前であってほしいと思う。

それに加えて、若者には社会の課題解決にも努めてほしい。政治家でも、現実的なビジョンやエビデンスを持った政策、課題解決の方法を掲げることのできる人はなかなかいない。しかし、私たち個人が身の丈で乗り越えることができるような課題解決の道筋はたくさん存在する。そういった身の回りの課題を解決することにも、若者には目を向けて欲しい。

選挙制度と投票率


 「若年層の投票率を上げるために選挙制度を変える方法があるが、具体的にはどのように変えるべきだろうか」という問いに対して、お二人の意見を伺いました。


(原田)世界の国々、特に途上国では、時代に沿った選挙制度改革が進んでいる。たとえば、立候補者や当選者のうちの若年層や女性の割合について定める制度などがある。

一方、少子高齢化の面では世界最先端といえる日本では、選挙制度改革はネット選挙や18歳以上の選挙権実現などに留まり、海外にくらべて改革が遅れている。たとえば「未成年の子どもを持つ親に、子どもを代理して投票する権利を認める」などの大規模な改革を行わないと、10年後には誰も得しないような選挙制度になっているのではないかと思う。

しかし、選挙制度を変えなくても、法律の範囲内でできるような改革は徐々に進んでいる。たとえば、2年前に愛媛県松山市で初めて大学の中に投票所が設置された。この画期的な取り組みは話題を呼び、今年の全国統一地方選では全国10箇所以上の大学に投票所が設置されるに至った。選挙制度や法律を変えるのは難しくても、このように現行の制度の範囲内でできることはあるということを訴えていくべきだと思う。


(田中)自分が若い頃は中選挙区制がとられていたが、多党化の潮流の中で、物事を決められる政治を目指して中選挙区制から小選挙区制へと改革が行われた。その結果、以前に比べ政策が極端に振れるようになっている。ここからもわかるように、選挙制度によって世の中はずいぶん変わる。大阪都構想の住民投票に見られるように、政治家ではなく政策を選ぶ選挙の方法もある。重要な物事を決める際には、そういった方法をとっても良いと思う。

また、海外には議員が行政運営に責任を持つような自治制度の国もある。一方日本、特に都市では地方議員が大選挙区制の中で何人も選ばれ、職業政治家となる。このようなありようが住民と自治体の距離を遠くしているようにも感じる。このように、選挙制度は有権者と政治家の距離、投票の際の判断基準等にも影響を与えると思う。

ネット選挙の未来


 2013年から導入されたネット選挙。賛否両論のあるこの改革について、お二人の意見を伺いました。


(原田)若い人が接しやすいツールを使えるようになったという点では良いと思う。実際に、ネット選挙が解禁された後の参議院選挙の出口調査によれば、若い人ほど投票に際してネットの情報を参考にしたというデータがある。また、候補者の情報を定期的に入手しやすくなるという利点もある。これまでは、政治家の情報を定期的に得るためには後援会に入るなどの手段をとらなければならなかったが、ネット選挙の解禁により、有権者はSNSを通じて候補者の情報を定期的に得られるようになった。このように、緩やかな関心層が政治とつながりを持つようになれば、政治が幅広い人々に広がっていくのではないかと思う。


(田中)ネット選挙が解禁されたことで、選挙は今までとは全く違う世界に入ったのだと思う。というのは、限られた情報量しか伝えることのできない紙媒体とは異なり、ネットならば候補者側から発信する情報量がほぼ無限大であるからだ。このことによって、政治家は自身の政策のスローガンだけでなく、実現性や効果を示すバックデータを有権者に示すことができるようになる。自身の政策が実現性のあるものとして認められるよう、候補者は政策を細部までしっかりと練る必要が出てくるため、ネット選挙は近い未来、選挙の質の向上にも貢献するようになると思う。 

若者が政治に参画する意義


 若者はなぜ政治に参加しなくてはならないのか、どのように参画するべきかについて、お二人の意見を伺いました。


(原田)まず政治と若者を自分なりに定義すると、政治とは「世の中を良くする動き」、若者とは「国の将来を担っていく存在」だと思っている。このように考えると、政治に関わらないというのは、世の中を良くすることを放棄したことと同じだと言える。今後の日本の未来を担う若者こそ、政治に関わる必要が大いにあると感じる。


(田中)「参画」と「参加」では大きな違いがあると思う。若い人には、自ら主体的に、意思的に行動する「参画」に積極的に取り組んでほしい。また、政治に参画する前に、社会に参画してほしいと思う。私たちの生きる社会には解決困難な課題が多くある。そういった社会の課題の解決に本気で取り組んでいるうちに、政治を動かさなければ前に進むことができないという場面が必ず出てくる。このように、社会に参画すればいずれは政治に参画することとなる。そういった意味で、若い人にはまず社会に参画してほしい。

若い人へのメッセージ


 将来を担う若者に向けてのメッセージをお二人からいただきました。


(原田)政治好きにはならなくて良いけれども、頭の片隅には政治のことを常に置いて、政治に参画してほしい。特に自分の住んでいる街や好きな街については注目してほしい。また、皆さんにはやりたいことがあったら是非行動を起こしてもらいたい。


(田中)瀬戸内寂聴さんの言葉に「若者は性と革命だ」というものがあるが、全くその通りだと感じる。私は、大学生にはもっと極端なことをして、極端なことに慣れてほしいと思っている。そのために、若いうちに「性と革命」に全力を注いで過ごしてほしいと思う。

 

政治とは


 最後に政治とは何かについて、お二人の意見を伺いました。


(原田)先にも述べたが、政治とは「社会を良くする動き」。政治は社会の一部なのだから、政治に興味、関心を持つことは必要であると思う。


(田中)政治とは、「理念に基づく政策で社会を変えていくこと」。政治は政策であり、政策は科学によって動くものであってほしい。また、皆さんにはそういった政治をきちんと見つめていてほしいと思う。

学生との質疑応答(原田氏への質疑応答)


Q、田中さんのお話に「現実性を欠く政策を掲げる政治家が少なからず存在する」とのお話があったが、そういった政治家の存在と若者の投票率の低さには関係があると思うか。

A、多くの国民が、多かれ少なかれ日本の将来へのぼんやりとした不安を持っている。それにもかかわらず政治家の掲げるマニフェストにバラ色の理想論しか書かれていなければ、政治家への信頼を失ってしまう人がいるのは確かだと思う。しかし、候補者側からしても、どの程度国の現実を有権者に見せるかは難しい問題だ。選挙を「人をまきこむ場」にすることで、有権者と候補者の関係が選挙の場だけで終わってしまいがちな現状を打開し、選挙後も有権者と政治家がビジョンの実現を目指して力を合わせるような形ができたらよいと思っている。

 

Q、日本の選挙制度が他の先進国に比べ遅れていると言われる理由は何か。

A、他国とは異なる歴史的背景をもつ民主主義に対する、国民の感覚の違いだと思う。

 

Qネット選挙を導入しても、投票率が変わらなかったのはなぜか。

A、そもそも、ネット選挙が解禁されても有権者が扱える情報が増えたに過ぎないのだから、ネット選挙解禁と投票率向上を結びつける議論に根拠がないと感じる。投票率が上がらなかったから、ネット選挙は失敗だったというような論調には疑問を感じる。

 

Q、投票率を上げるためにするべきことは何か。

A、政治家が自身の政策やビジョンの支持者を増やした結果として投票率が上がることが理想的だと思う。今はネットを通じて政治家と市民が双方向で対話できるようになったため、有権者は積極的に政治家へ疑問を投げかけて欲しいし、政治家にはそういった環境づくりを行ってほしい。

 

Q、若者が政治に参画する方法には、具体的にどのようなものがあると思うか。

A、自分が望む社会を政治家に伝える、そして政治家を通じて実現させるというのが政治に参画する方法だと思う。やりやすい方法で言えば、政治家にメールをするでもいい。また逆に、自分がやりたいことをやっていると、それを政治の方から取り上げてくれることもある。自分は「若者と政治をつなぐ」活動をしているが、それを政治、行政側から評価してもらえれば、彼らと一緒に活動することになると思う。このように、最初から政治に直接参画しなくても、「政治や行政も変わらなければいけない」という意識を持ちながら活動をしていれば、自動的に政治に参画することになるのではないか。

 

Q、ネット投票についてはどう考えているか。

A、これだけ情報技術が進歩したのだから、ネット投票は目指すべきだと思う。ただ、投票の利便性をどこまで高めるかということはよく考えなければならない。現行の投票の方法は前近代的だが、わざわざ投票所まで出向き投票するからこそ、自分が政治に参画しているという意識も生まれるのではないかと感じる。そういう意味では、ネットを通じて簡単に投票ができるようになることは、ある種の危険性をはらむのではないかと思う。

 

田中氏への質疑応答


Q、若者が投票に行かない理由は何か。

A、投票をさせるような立候補者がいないことも原因の一つだと感じる。そのためにも、しっかりとした政策を持つ立候補者が出てくることが重要になる。

 

Q、もともと政治に関心のない人たちを政治に巻き込むにはどうすればいいと考えるか。

A、「政治に関心のない人」と言うが、政治に全く関心のない人が存在するのかについてまず疑問がある。たとえば、消費税増税や無居住地域などの身近な話題であれば、誰でも少しは関心を持っているはずだ。このような身近な話題でも、その先には政治がある。こう考えると、「政治に関心のない人」は存在しないのではないかと思う。

 

Q、選挙活動にSNSが使用されることによって、選挙の質が下がるのではないか。

A、たしかにネット上の言説に危ういものを感じることはある。しかし、活字メディアの衰退にしたがって、ネット上の無限の情報から必要なものを選択し、判断を行わなければならない時代が必ず来る。そういった時代の変化に伴って、有権者も徐々にリテラシーを身につけていくのではないかと思う。

 

Q、投票率を上げるためにするべきことは何か。

A、投票率が低い原因は、選挙に対する関心の優先順位が低いことにある。そのため、有権者の政治への要望が強くなれば、選挙の優先順位は上がり、投票率は上がるだろう。国民誰もが世の中に対して自分が実現したいテーマを持ち、情報を集め、自分なりにとるべき選択肢をもつことで投票率が上がることが理想である。そう考えると、ネット選挙解禁によって有権者の扱うことのできる情報が増え、それについての中身の濃い議論をすることが可能になったということは決して悪いことではないと思う。

 

Q、政治家になろうと思った契機は何か

A、区役所に勤めて、この仕事が自分に合っていると実感したから。その当時区の状況が行き詰っていたので、それなら自分が変えるしかないと考え、区長に立候補した。

 

Q、若者が政治に参画する方法には、具体的にどのようなものがあると思うか。

A、特に学生には、勉強をしてほしい。先ほどから政策には裏付けとなるエビデンスが必要と何度も述べてきたが、それを証明できる人は少ない。それは、政策を支える学問的知識が不足しているからだ。そういった点をつきつめて学問的に追究してみると、何かが見えてくるのではないか、それがおのずから政治に参画することにつながるのではないかと思う。

 

Q、ネット投票についてはどう考えているか。

A、一人が一票を投じることが確実に保証されるのなら、投票行動のハードルが低くなるという意味では、ネット投票は悪いことではないと思う。たしかにネットで投票することによるバイアスはあると思うが、投票方法それぞれについてバイアスは多かれ少なかれ存在するため、投票しやすいというメリットがあるのであれば、ネット投票は実現するべきであると思う。

所感


 今回は、2名の講師の方によるトークセッション形式で勉強会を行いました。トークセッションではお二方の意見を聞くことで、立場の異なるお二方の政治に対する意見を知ることができ、とても新鮮に感じました。

 私は、若年層の投票率が低いことの原因やその影響について、それほど深くは考えていませんでした。また、選挙に行こうとも思っていませんでしたが、原田氏と田中氏から政治に参画することの大切さについてお話をお聞きし、将来の負担を負う私たちの世代が選挙に行かないということでは、日本は良くならないと考えるようになりました。現状の選挙では政策よりも人の方が重要視されがちです。しかし選挙は、政策と議論によって活発にするべきものなので、ネット投票の導入によってどのように選挙が変化するのか、注目していきたいと思います。また、私たち有権者の側もするべきことは多くあります。人ではなく政策で選ぶようにしたり、住んでいる街の政治を調べたり、「性と革命」に全力で生きる等、今できることから始めていきたいと感じます。

 

文責 小杉啓太