2014年度 第1回勉強会

企業の社会貢献と企業の社会的責任

冨田秀実氏(LRQAジャパン事業開発部門長)  


 4月9日、日吉キャンパスにて新歓講演会が行われました。

 

 2011年の東日本大震災を契機に、ボランティア活動や支援活動が改めて注目を浴び、社会貢献活動への取り組み意識が高まっています。私的利益を追求する存在の企業においても、公共利益を還元するCSR活動は不可欠であるとされ、山積する様々な社会問題の解決に向け活動を行っています。しかし、社会貢献活動の重要性や必要性は十分に理解していても、実際に行動を起こし、社会へ利益を還元する人はそう多くはありません。NPO団体や企業と提携して市民活動へ参加しやすいはずの大学生も、その動機は就職活動への一助というものが多く、結果として一時的な活動に終始してしまい、日本全体に社会貢献活動が浸透しているとは言えない状況にあります。

 そこで今回は、かつてソニーのCSR部の統括部長をお務めになり、現在はLRQAジャパン事業開発部門長でいらっしゃる冨田秀実氏を講師にお呼びし、近年活発に行われている企業の社会貢献活動についてご講演していただきました。日本のCSR活動の先頭に立ち、企業による社会貢献事業を牽引なさってこられた冨田氏との意見交換を通して、今後、どのようにして学生が主体的に社会貢献活動の一端を担うべきなのかについて考えました。

社会貢献活動のあり方とは


 冨田氏は「社会貢献だからといって何をしても良いということではない。戦略的に社会貢献とは何かを深く考えることが重要である」と指摘された。各々の会社が自社のビジネスの分野と関連の深いところで、社会貢献活動を行うことが大切であるそうで、現在は企業によって異なるカラーの社会貢献活動が行われているそうだ。また、企業が社会貢献活動を行う理由として、冨田氏は「企業の理念がその根拠とされる場合も存在するが、企業のブランドイメージの向上や売り上げの上昇を目的とする企業も実在する」と現状を分析された。

社会貢献活動の心得


 冨田氏の個人的な社会貢献活動の原点は、阪神淡路大震災が発生した際に参加された震災復興ボランティアの中で被災した方のお手伝いをされた経験にあるそうだ。そして、企業が社会貢献活動をする上で明確にするべきポイントについて冨田氏は言及された。それは以下の5つである。


・なぜするのか

・誰のためにするのか

・何をするのか

・どのようにするのか

 ・誰に伝えるのか


これら5つのことを意識することが、社会貢献活動を成功させる秘訣であるそうだ。

 

企業の社会的責任CSR


 近年ではNPOやNGOなどの市民団体をはじめ、多くの民間企業もCSR活動に熱心に取り組んでいる。そもそもCSRとは「企業が利益を追求するだけではなく、社会や環境に対する影響に対して責任を持つことこと」と定義される。CSRが活発になってきている現状について、冨田氏は「企業に求められる役割が変化していることや、様々な環境問題の顕在化、企業が巨大化し社会的影響力が向上していることなどが背景としてある」と話された。そして、企業が利益のみを追求したことによる事例として、大手スポーツメーカーの委託工場での児童労働問題や、大手食品メーカーで使用するパーム油のプランテーションによる、熱帯雨林破壊やオラウータンの生存の危機の問題を挙げられた。また、CSR活動の効果を測る重要な尺度のひとつに「その企業の社員の幸せ」を挙げられ、「CSR活動の成功は社員が幸せになることである」というご自身の考えを述べられた。

社会貢献のヒント


 冨田氏は、社会貢献を取り組む際のヒントとして3つのことを挙げられた。一つめは「理解する」ということで、これは物事を正確に理解し、批判的精神をを持つこと。二つめは、実際の生の現場を体感するための「行動をする」ことで、三つめは人間一人の力が限られているからこそ、仲間を作ったり、他の人や組織を巻き込むなど「レバレッジを効かせる」ということである。これら3つのことを意識することで、効果のある社会貢献を行うことができるそうだ。

所感


 様々な企業がCSR活動を行っている現代において、私たちはその企業を疑いの目をもって観察していかなければならないことを改めて感じました。そして、そのような姿勢でいることが、さらなるCSR活動の発展に寄与するのではないかと考えました。また、各々の企業が自社の得意分野を生かしたCSR活動を行っていることを知ることができ、今後のCSR活動の動向に興味を抱きました。

 

文責 南部久翔