2011年度 夏合宿分科会


 今年の9月に行われたFront Runner夏合宿の際の分科会レポートです。夏休みに入る前に夏合宿参加者を小林班、澤田班、高田班、針貝班の4班に分け、班長の指示の下、夏合宿前に事前準備を行った上で当日に班内でディスカッション等を行い、最終的にプレゼンテーションによって分科会の最終報告を全体で共有した。


 小林班は「日本の移民政策 ~移民受け入れを緩和したら~」、澤田班は「君が代日の丸と教育行政との関わりから国家のあり方を考える」、高田班は「年金制度改革」、針貝班は「新卒一括採用制度」というテーマについて議論を行った。


 以下、各班によるレポートである。


日本の移民政策


◆移民とは?   

移民とは一方的に定住を目的として国境を超える者を意味するのではなく、雇用を目的として海外に移住する者を呼ぶ。  


◆移民受け入れのメリット

○多様性の創出

 多くの移民の日本への流入により、日本人はグローバル化した世界に密接に関わることができる。内向思考で日本語に依存しがちな日本人でも日常的に他言語に触れ、平等に外国語教育の機会が与えられる。また、外国人から新たな価値観を取り入れ、あらゆる分野において既存の範疇を越えた新たな発想が生まれやすくなる。これをビジネスに活用すれば、多くの勢いある企業の誕生につながる。

○従属人口指数の低下

 従属人口指数とは、従属人口(高齢者や子供)を生産年齢人口で割ったもので、この数値が高ければ高いほど労働人口が担う高齢者などの負担が大きい。現代の日本はOECD諸国の中でも最も従属人口指数が高くなっている。つまり、労働人口が担わなければならない高齢者などの負担が非常に大きい。この状態は人口オーナスと呼ばれ、人口の中で働く人の割合が小さくなるため経済が悪化していく。この現状を打開するには、日本は移民を受け入れ労働人口を増加させる必要がある。

○移民受け入れによる社会保障負担の軽減

 若年労働世代の移民受け入れにより税負担人口が増加するため、賦課方式の年金制度を維持し将来世代の効用の低下を和らげることができる。移民に対して新たに社会保障が必要だという懸念も存在するが、税金を払うことが可能な職業環境を整え、医療・介護・農業などの人材不足である分野の労働力として活用すれば、経済成長率の低下防止、社会保障費の負担減に繋がる。


◆移民受け入れのデメリット   

○国内雇用問題

 移民導入により国内雇用の競争が激化し日本人の雇用確保が危ぶまれる。更に移民労働者が失業した際の失業保険や保障は邦人の血税に基づくものであるから不満の種となる。   

○治安・文化問題

 宗教的背景、人種差別、食文化の違いなどから邦人と移民の間に軋轢が生じるのは不可避である。例として移民受け入れを推進した欧米諸国において過去に暴動が起きている。また宗教・食文化的な背景は日本の景観や食文化を脅かす可能性がある。   

○参政権問題

 移民に対し邦人と同等な参政権を付与すると、国民主権の形骸化が危惧される。また日本に訪れる移民の多数は現在領土問題で対立する中国出身だと見込まれるが、民族の違いから日本の政局運営に汚職、支障が生まれる可能性も捨てきれない。    

○社会保障問題

 十分な知識・言語能力に欠ける移民は生産性が低い上、社会保障に依存している人が多く、日本に経済的な利益をもたらさないという恐れがある。長期的なスパンを見積もれば逆に社会保障費の増加も見込まれるが、現在財政的に不安定な日本が移民を受け入れるリスクは高い。   

○頭脳流出問題

 恵まれた生活環境を求め、高等教育を受けた個人が母国を離れ外国に移住する傾向が途上国を中心に顕著になっており移出国の発展の妨げとなっている。日本一国では解決できる問題ではないが度外視するわけにはいかない。


◆我々がとるべき指針   

 3.11の大震災は日本の景気後退の波に追い打ちをかけるものであった。故に政府と企業が復興資金を調達する中、この国を経済成長の軌道に戻す重要性は増している。移民受け入れは日本に国際化の風を呼び、我々に自己を見直させる契機となる可能性を秘めている。確かに移民を受け入れることでこの国の経済状態は好調の兆しを見せるかもしれないが、一方で日本が被るリスクは自ずと高いものになるだろう。しかし時代はグローバリズムに強く押されており、日本が楽な方法で済ませられる時代はもう過ぎているということを我々は認めなければならない。


文責:兵平、花崎


君が代日の丸と教育行政のかかわりから国家のあり方を考える


 当分科会では、日本の教育の現場で問題になっている国歌・国旗(君が代・日の丸)の扱いについて議論した。ケーススタディとして東京都での事例を取り上げた。これは東京都教育委員会が「都立学校の入学式、卒業式等において教職員らが国旗に向かって起立し、国歌を斉唱することを義務付け、従わない教職員には、服務上の責任を問われる」ことを教職員に周知することなどにより各学校で入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱を適正に実施するよう通達した、というものである。これに反対する教職員側が都教育委員会に対しこの通達は違憲であるとして訴訟を起こした。数度の裁判を経て、最高裁によって合憲判決が出された。まず、本分科会ではこの判決が違憲か合憲かということを論点とした。

 

 違憲派からは

・教師、公務員である前に個人であり憲法で思想、良心の自由を侵されてはならない。

・生徒に対する無言の思想良心の自由への侵害に成りうる。 という意見が出た。

 また、合憲派からは

・教育指導要領に従うべきであるし、そもそも公務員には職務上その自由に制限がある。

・秩序の維持には罰則、処分が不可欠であり、そういった意味で妥当。

  という意見が出た。

 

 また、この問題の根底にある君が代・日の丸に対する歴史認識についても話し合った。斉唱、掲揚に反対する側の主張として、君が代・日の丸が先の大戦での軍国主義化した日本の象徴であり、それを現代日本で強要されることが精神的苦痛である、というものがある。しかしこれは、君が代・日の丸の本来の成り立ちとは関わりがなく、時の政治において国民統一の旗印として祭り上げられたために起こったことである。いわば君が代・日の丸も大戦の被害者といえるのではないだろうか。もっとも現在教壇に立っている中には戦争直後の過度な反戦前体制教育を受け、それを信条としている者も多くいることもまた事実である。そういった層に対して強制的に起立、斉唱をさせることは教育現場の混乱を招くため、好ましくないと考える。強制はせずに式の秩序を乱さないかたちでの自由意志尊重を行うことがベストなのではないだろうか。

 

 愛国心は、成熟した国家の国民には必要不可欠なものである。自国の象徴たる国歌・国旗に対する敬意はその最も目に見える例だといえる。しかしこれを強制することで「身に着けさせる」ことは本来の愛国心とは異なったものとなってしまうであろう。教育現場において、まず国歌・国旗に対する間違った歴史認識を改めつつ、自然に祖国日本を愛せるような教育が行われることが理想であるという結論に至った。

 

 文責:栗田

 

 

年金制度改革


 少子高齢化・財政赤字・未納者問題によって、現行の年金制度は存続が難しくなっている。 年金は、将来に対するリスクヘッジ、最後のセーフティーネットの役割を担っている為、国民にとって不可欠な社会保障制度であり、改革を迫られている。ここに、分科会で挙げられた改革案をまとめる。

           

【少子高齢化対応】

●賦課方式⇒積立方式

人口のピラミッド型が前提となる賦課方式(世代間扶養)から、自ら払った保険料が給付される積立方式への転換。積立方式の問題点はインフレ発生時に給付金の実質的価値が減ること。

 

対策       

①年金積立金のみ兌換紙幣(正貨を支払うことを約した紙幣)を採用する       

②賦課方式と積立方式のリスク比較を個人が行い、どちらか選択出来る制度      

③民間に委託 (例) superannuation<豪州>

 

●みなし掛け金建て方式  

年金財政は賦課方式で運営する一方、各加入者への受給権付与は掛金建てに基づいて行う方式。

(⇒拠出:給付=1:1)

●少子化対策 待機児童問題の解決や、子ども手当支給によって根本から少子化を打開する。

 

【安定した財源の確保】

●保険方式から税方式への転換 消費税を5~10%増税し、用途を年金に絞った税方式を確立する。直接税より間接税増税の方が、徴収力などの点においてメリットがある。


【未納者対策】・・・国民年金納付率10年度58.2%(免除者分を分母に加えた実質納付率は43.4%)

●徴収方法

○一律の徴収額→所得に応じた徴収額(所得比例制度)

○消費税による強制徴収

●制度の簡素化・不公平感の是正

○非正規雇用者の厚生年金組み込み等、制度の一元化 cf.共済年金と厚生年金の一元化  

(・・・厚生年金納付率97.1%〈1966年以来の低水準〉)

○最低保障年金と生活保護の一元化 

⇒社会的セーフティーネットを一律にかけるべき

・・・未納者・低年金者が財政コストの高い生活保護に流れている問題を解決

       

新卒一括採用制度


 我々新卒一括採用班は、事前MTの段階で現行の新卒一括採用制度、すなわち企業が卒業予定の学生を対象に年度毎に一括して求人し、在学中に採用試験を行って内定を出し、卒業後すぐに勤務させる、という雇用制度には反対であるという意見で一致した。その理由として、学生にとっては、機会が不均等であること、フィードバックをしてもうチャンスが無いこと、長期留学などの経験がしづらいことなどが挙げられた。また企業側にとっても、年功序列や終身雇用という日本的雇用慣行が崩れつつある中で、これまでの採用制度は時代にそぐわないという意見が出た。しかしアメリカのように、未就業者と既就業者を区別しない採用制度を今すぐに導入した場合、実務経験の無い学生は面接のアピールなどの際にかなり不利になってしまうだろう。さらに、新卒一括採用には、採用効率が良いこと、採用コストが低いこと、企業の理念や意思決定スタイルが伝承しやすいことなどのメリットも存在する。そこで合宿の分科会では、新卒一括採用制度を廃止するのではなく、就職活動が学生にとって「自己成長するプロセス」となり、企業が求める人材を確保でき

るようにするために、いかに採用制度を改善するかということを議論するに至った。

 

 現在の新卒一括採用制度の改善には、企業と大学双方からのアプローチが不可欠である。企業側への提言としては主に3点挙げられる。

 

 1つ目は、大学を卒業後3年以内であれば新卒者と同じ枠で就職活動を行えるようにすることだ。これにより就職活動が「一発勝負」にはならず、それぞれの成長速度に応じて就職することが可能になる。

 

 2つ目は、採用活動を春と秋の2回行い、入社の時期も2回設け、さらに学生に対する選考試験フィードバックを定着化させることだ。これにより学生は、自分の欠点を認識して成長しながら、再び選考試験に挑戦することが可能になる。

 

 3つ目は、大学1年生の時から企業のインターンシップや説明会に参加できるようにすることだ。就職活動の早期化が批判されている昨今であるが、大学の4年間は「学生社会」から「企業社会」への移行の時期であると言える。インターンシップのような企業研究と自分磨きの機会を早い段階から希望する学生に与えることにより、彼らのキャリア意識を高めることができる。

 

 次に大学側への提言としては、選択制のキャリア教育の導入を挙げることができる。産業構造の変化や景気の低迷に伴って、企業は社内で新入社員を教育する時間的・コスト的余裕が無くなっている。そのため、大学が人材を育成する機能の一部を担わなければならなくなっているのだ。我々は、経済産業省が2006年に提唱した「社会人基礎力」に基づき、社会人として最も重要な能力を、コミュニケーション能力、プレゼン能力、社会人常識であると考えた。これらの能力を獲得できる選択制の授業をカリキュラムに導入することにより、即戦力となり得る学生の育成が可能になるだろう。我々の提言を実行に移すには、多くの困難が待ち構えていることであろう。しかし現在の新卒一括採用制度では、急速にグローバル化する世界経済から取り残されてしまうのは明白だ。日本が経済成長という道を選ぶならば、求められるのは「変革」なのだ。

 

 以上が、四班による分科会レポートであるが、どれも現在の日本社会が抱える根幹的な問題であり、皆一人一人がこれらの諸問題を直視し、どうすべきかについての自分自身の意見を持ついい機会となった。今回の夏合宿の一大テーマであった「日本の未来」を考える場の提供という意味で、当分科会は大変意義深いものになったが、「日本の未来」を我々若者が主体的に考え、より良くしていくにあたり議論すべき問題はまだまだ多く残されている。今後も日々の定例会を中心に日本社会の諸問題をじっくりと考えていきたい。


                                 文責:澤田