2014年度 第2回リフレクション

安全保障と憲法9条


 今回の定例会では、Case Studyを通して学習してきた「安全保障と憲法9条」について、8班に分かれ、ディベートを実施しました。

 今回のディベートでは、以下の架空のディベートストーリーの中で日本はどう対応すべきだったかを考えることにより、日本の平和のために軍隊は必要なのか、日本の安全保障の形はどうあるべきなのかを考えました。


ディベートストーリー


 A国は天然ガスなどの天然資源が豊富で、多くの先進国企業の進出先となっている。そんなA国において、ある日大規模なテロ事件が発生した。


 テロ事件を起こしたのは、A国の資源が先進国に搾取されている現状に不満を持っていた武装勢力X。武装勢力Xは、先進国企業の従業員を人質にとり「先進国企業が資源をすべて手放さなければ人質を殺す」との声明を発表した。人質の内訳は、K国の従業員100名、L国の従業員100名、M国の従業員200名、日本の従業員100名である。


 この事件に対し、国連はA国各地域の平定と治安維持のために、軍事に頼らないあらゆる形での支援を各国に要請した。K国、L国、M国はA国に軍隊を派遣した。その結果、K国は50名の人質救助(軍人犠牲者10名)、L国は80名の人質救助(軍人犠牲者0名)、M国は10名の人質救助(軍人犠牲者50名)に成功した。一方、日本は「憲法9条の条文により、交戦権が認められていなく海外派兵が禁じられている自衛隊は現地に派兵できない」としてA国への派兵を行わず、日本人の人質は現地で全員死亡した。その後、A国でテロ事件を起こした武装集団Xに対してZ国が支援を行っていると世界中で報道された。


 これでテロ事件は幕引きを迎えたかのように思われた。しかし武装勢力Xは、事件において人質救助のため強引に軍事介入した先進国に対しテロ攻撃を開始した。K国とL国でテロ事件が発生し、それぞれ20名が国内で犠牲になった。救助数の少ないM国と救助に向かっていない日本はXからのテロ攻撃を免れた。攻撃を受けたK国とL国は、武装勢力Xを支援していたとされるZ国に対し軍事報復を決定。その結果K国L国対v.s.Z国の対立関係が生まれ、その構造は戦争へと帰結した。


ディベート


論題

「ディベートストーリーの中で、日本は海外派兵を行い人質の救助に向かうべきだったか」


以下、肯定派否定派において挙げられた論点です。

肯定派

・交戦権と海外派兵が認められる軍隊を保持することで、ディベートストーリーのような人質事件等の有事問題を解決できる可能性が上がる。

・日本が積極的に人質の救助に向かうことで諸外国からの国際的な評価・信頼が得られる。また、他国からの一定の評価が得られることで、日本は同盟国と現状より多角的で効果的な協力関係を結ぶことができる。

・軍事力を向上させ、海外派兵できる力を持つことで、国連安全保障会議での発言力向上につながる。

・憲法13条で「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については(中略)最大限の尊重を必要とする」とあるように、国民の生命を保護することは国家の義務である。

・「もし海外で事件に巻き込まれたとしても日本の軍隊が助けに来てくれる」という安心感を海外勤務する人に与え、海外勤務をする人の増加、ひいては日本の産業の発達が期待できる。


否定派

・海外派兵を行わないことで、派兵をきっかけに海外のテロ事件や紛争に巻き込まれるといった事態を避けることができる。

・日本国憲法の掲げる平和主義は世界に誇るべき崇高な理念であり、簡単に変えてしまうべきではない。

・日本が海外派兵を認めた場合、それが諸外国に日本が右傾化しているとの悪い印象を与える可能性がある。領土問題などで中国、韓国との緊張が高まっている今、中韓との関係をさらに悪化させるような行動はとるべきではない。

・一度軍隊を認めてしまうと、その後恒常的に海外の敵対勢力に対して派兵しなければならなくなる可能性がある。これは敵対勢力の増加や諸外国との対立激化につながる。

・日本が海外派兵を行うことは、日本の平和的存在としてのイメージを裏切ることになり、他国からの信頼喪失につながるおそれがある。

・ディベートストーリーの中で、海外派兵をせずとも人質を救助できる方法として、「A国における日本の保有する資源をすべて放棄する」ことが挙げられる。人質をとっている武装勢力は資源を手放すことを先進国に要求しているため、先進国がA国の資源を手放しさえすれば、人質は救うことができると考えられる。


 1年生にとっては初めてのディベートでしたが、それを感じさせない活発な議論が交わされていました。今回のディベートで独特だった点は、ディベートストーリーの中で人質を救助するための、海外派兵に代わる案を立論に盛り込んでいる班が見られたことです。人質を助けるための案として海外派兵の他にも様々な案が挙げられており、日本の安全保障のあるべき形を模索する議論が行われている様子もうかがえました。


セルフディスカッション


 セルフディスカッションでは「日本の安全保障は平和主義と軍備のどちらに頼っていくべきか」に関して議論しました。その結果、以下のような意見が出ました。


・平和主義を貫くべきだ。憲法による軍備への規制について現在様々な批判があるが、平和主義を貫いた日本の姿勢は後世に評価されるはずだ。

・平和主義を貫くべきだ。日本が平和主義を放棄した場合に失う他国からの信頼は、あまりに大きい。

・軍備に頼るべきだ。現在日本は日米安保条約の取り決めにより有事の際はアメリカに守ってもらうことになっているが、本当に守ってもらえるのかについては不安がある。やはり自国のことは信頼できる自国の軍備で防衛するべきだ。リフレクションを通して以前と考えが変わったという意見もありました。ディベートを通して安全保障に関する様々な意見や事例に触れ、各々が日本の安全保障を今一度見つめなおすことができたようでした。


文責:矢部麻里菜