2013年 第7回勉強会

日本の教育

森山誉恵氏(特定非営利活動法人3keys)


 12月13日、日吉キャンパスにて「日本の教育」というテーマのもと、特定非営利活動法人3keysの森山誉恵氏にご講演いただきました。

 

教育とは何か


 森山氏はまず、私たちに教育とは何か尋ねられた。 教育とはいったい何なのか、そこから立ち返って、森山氏は自身の教育に対する考えを話してくださった。教育とは何かに対する答えは様々ある。文部科学省によると教育とは、「確かな学力」「豊かな人間力」「健康・体力」この三つから成る「生きる力」を教え育むことをいうのだそうだ。 現在、日本の小学生の4割は塾へ行くという。森山氏の運営する3keysでは、塾へ行ったことのない人への支援を行っているのだそうだ。塾へ行くことのできる人は授業内容が十分理解できており、それにより授業妨害を行う。一方で塾へ行くことのできない人は授業内容が全く分からず、それにより授業妨害を行ってしまうという。塾へ行くことのできる人は塾があるから学力はどうにかなるが、塾へ行くことのできない人は分からないままで終わってしまう。そのような状況が最近の小学校などでは起きているという。そして現在は学力と貧困は比例してしまう時代なのだという。


教育格差


 学力だけでなく、文部科学省によって定義されている教育の中の、「豊かな人間性」というものも周りの大人の余裕や人数によって変わってしまうと森山氏はおっしゃった。森山氏が代表を務める3keysでは家庭の環境がよくない子どもに勉強を教えているため、それがひしひしと感じられるのだという。そのような子どもはどのように自分に愛情を向けさせるか、どのようにうまく嘘をつくかなどを考え、顔色をうかがって生きているのだそうだ。また、健康や体力も家庭環境が大きく関わってくるのだという。 さらに近年、家庭での虐待についての相談件数は増加している。また、虐待をしてしまう親というのも子どもの頃に十分な教育を受けていない傾向があるのだそうだ。


森山氏の思い


 森山氏が日本の教育に問題意識を感じ始めたのは大学2、3年生の頃だったという。大人(消費者)が欲しい物はたいてい揃っている。しかし、母子家庭のもとで育った子どもは中学生で足し算引き算もままならない…このように、お金を払えない人間は市場で相手にされないという現実に疑問を感じたそうだ。 日本には『児童憲章』というものがあるのだが、これも実態としてはお金を払える家庭に向けて書かれたようなものなのだそうだ。消費者のウォンツはニーズとなりすぐに商品化・サービス化される。しかし、社会的弱者の「こうしてほしい」は「わがまま」や「自分でやりなさい」として片づけられる。 


 森山氏はこの現状は「貧困の連鎖」ではなく「裕福の連鎖」だとおっしゃった。先進国では裕福のレベルがものすごいスピードで上がっていく。しかし、貧困層の生活レベルはそれに追いつくことはできない。このような「裕福の連鎖」よって貧富の差はいっそう広がっていく。生活水準の上昇に対して社会保障制度や非営利分野が追いついていないのだ。  


 もし、しっかりと社会的弱者のウォンツを拾い上げようとするならば、しっかりとした調査研究が必要なはずである。しかし、消費活動の調査研究費と社会保障の調査研究費のギャップは埋めることができない。このギャップが直接貧富の差を生んでいるのだと森山氏はおっしゃった。 


 このような問題意識が爆発し、大学生にできることは何かを考えた結果、森山氏は現在の3keysの原点となるボランティア教師を開始したのだそうだ。当初は4人程度でのスタートだったという。現在活動開始から5年目を迎える森山氏は、教育の直面する問題の背景にはもっと根深い問題があるとおっしゃった。


最後に


 森山氏が受け持つ生徒の多くは国から突き放され、社会へ不信感を持っている子どもだそうだ。子どもたちの「生きる力」を育むにはそもそも、学校の力だけでは足りず、家庭や地域の力が重要となってくるという。 森山氏は3keysの活動を通して、まず市民・草の根の力でモデル作りを行い、それから専門機関・法人との連携で質と量をアップさせ、最終的に社会制度化を目指しているという。そして、すべての子どもたちに自立してもらえるよう、今後も3keysとして活動を続けていくとおっしゃった。


所感


 森山様の話ぶりからは、非常に熱い気持ちが伝わってきました。また、私たちが普段生活している中では気づかないような、現実の子どもの状況や教育の現状を包み隠さず話してくださったため、大変衝撃を受けました。今回のご講義を通して、今までの教育に対しての見方が変わった人も多くいるのではないかと思います。


今回ご講演いただきました森山誉恵様、ありがとうございました。


文責 中杉郁佳