2015年度 第10回リフレクション

一億総活躍社会 ~高齢者就業~

論題「60-64歳の高齢者就業率をあげるために、国はどのような施策をとるべきか」


立論


 三戸班は、政府主導で再就職を希望する高齢者に対するセミナーを行う「高齢者再就職支援プログラム」を提示しました。セミナーでは、語学や専門知識、資格、技術習得支援とそれらの重要性について扱うこととし、①高齢者がスキルを習得することが、企業が高齢者を雇用する動機となる②都市部における高齢者の雇用率が上がる③高齢者の就業意欲が発生し、生きがいが向上する、という3つのメリットが述べられました。

 

内藤班は、60歳以上労働者の雇用主に対して、社会保険料の事業主負担分の減免を行う「シニア層活躍社会Nippon(仮称)」政策を提案しました。これには、企業と労働者が個別の労働契約を結ぶシニア・アグリーメントの実施と、ソーシャルパートナーズと呼ばれる政労使協定が含まれます。これにより、世論形成という面からも高齢者の雇用の増加を可能にすると述べました。

尋問


内藤班から三戸班には以下の尋問がなされました。

 

1セミナーの人数・規模・頻度はどのくらいなのか。2企業が高齢者に任せる仕事がないから、高齢者を採用しないというデータがあるが、その原因はすべて高齢者の知識・技能不足なのか。3立論に就業意欲が向上すると健康寿命が伸びると書いた根拠はなにか。

 

それに対し三戸班は以下のように回答しました。

 

1数に左右されるような内容のセミナーではないので人数にはこだわらない。開催頻度は、セミナーの内容により異なるが、深い内容を扱うセミナーというよりも、契機作り程度のセミナーを想定している。2体力の問題などもあると思うが、知識・技能の点が主要な原因だと捉えている。3有業率が高ければ、健康寿命が伸びるということを前提とした。

 

三戸班から内藤班には以下の尋問がなされました。

 

1社会保険料の事業主負担分の減免とあるが、その基準と程度はどれくらいか。2対象となる就業形態は正規雇用か、それとも非正規雇用か。3高齢者雇用安定助成金との違いは何か。

 

それに対し、内藤班は以下のように回答しました。

 

1企業がどれくらいシニア・アグリーメント等を取り入れながら、高齢者を雇用しているのかが基準であり、程度はその達成度による。減免を進めていく中で、将来的にはなくしていければ良い。2派遣雇用等の形態も含む。3高齢者雇用安定助成金が再雇用やハローワークからの紹介に限定される一方、内藤班の提案は現在の雇用の継続をも含めた支援ができる点で異なる。

反駁


【内藤班の立論に対し、三戸班から以下のような反駁が挙げられました。

 

1.先ほどの尋問への回答から考察するに、内藤班は、高齢者雇用安定助成金の内容についての理解が間違っている。そのため、再度、内藤班の提案と現行の制度との相違点を、明確に教えていただきたい。政労使協定も法的拘束力がなければ、企業はそれに従わず有効性はない。2日本の企業では年功序列の考えが根強く、年長者の給料は高い傾向にある。そのため、人件費の高い高齢者の雇用契約を延長することによる企業へのメリットは、少ないように思われる。その上、高齢者雇用安定法の改正により、働きたい人は65歳までは働ける。それでは、この政策の実施には、本当に意味があるのか。3労働者の就業意欲は現在も高く、その向上を目的とするシニア・アグリーメントやソーシャル・パートナーズには有効性はないのではないか。

 

内藤班は三戸班からの反駁に対して、以下のように回答しました。

 

1政労使協定が常にあり、これが高齢者雇用を企業に促していくという点、並びに諮問機関を設けて監視していく点で、現行の制度とは異なる。ソーシャル・パートナーズは企業の高齢者雇用への対応を公表していくため、それによって形成される世論が大きな拘束力となる。2年功序列といっても就業日数が減れば、給料も社内での影響力も減る。また、柔軟性の高い雇用契約をシニア・アグリーメントで結べるため、高齢者は負担を減らしつつ、高い能力を生かして働き続けることができる。高い能力を持った高齢者を、今までより安く雇用できることは企業にとって大きなメリットである。そもそも、日本の労働人口は減少しているため、高齢者の雇用は必要なものとなってくる。3明確な回答なし

 

三戸班の立論に対し、内藤班から以下のような反駁が挙げられました。

 

1高齢者の就業率を上げることが目的であり、わざわざセミナーを必要とするような専門職に高齢者を就かせる必要はない。同じセミナーをするのならば、若者を対象に行う方が企業のインセンティブも高い。2就業率と健康寿命の相関関係ではなく、その因果関係は何か。デスクワークでも同じことが言えるのか。3大教室のセミナーでスキルの習得は果たしてできるのか。有効性に欠けるのではないか。

 

三戸班は内藤班からの反駁に対して以下のように回答しました。

 

1体力のない高齢者には、デスクワークの方が就業率を上げる点で有効ではないか。企業もスキルがあるならば、高齢者を雇用する。2明確な回答なし3大教室ではなく小さな会場でやれば良い。それにより、セミナーの回数が増えても、セミナー開催のための費用はそれほどかからない。

自由議論


これまでの議論を踏まえ、三戸班と内藤班の間で自由議論が行われました。

 

三戸班:60-65歳の高齢者を雇わなければならなくなった現在、高齢者に企業が求めるようなスキルを身につけてもらうことは、一つの有効な手段であり、語学・パソコンのスキル等をセミナーで教えるべきである。

 

内藤班:高齢者は再就職をしても、それまでと環境が変わることやそれまで培ってきたスキルが使えないことなどを理由に退職していることが多い。その点で、雇用延長を促す内藤班の提案は有効である。また、現在までよりも監視する機関の働きを強めることで、企業の動きを加速させることができる。

所感


 今回のディベートは、内藤班の勝利となりました。どちらも現行の制度を詳しく調べた上で議論が進められており、高度な内容であった印象を受けました。また、雇用の問題である以上、政策を行う国・雇用者・被雇用者の3主体が存在するため、その全てにおける利益を求めることは、非常に難しいことだと思いました。

    

                                          文責 小沢真緒