第5回リフレクション

建て直せ日本の政治


 12月11日、Web会議サービスであるZoomを用いて、「日本の中学校・高等学校での政治教育の実施を義務化すべきである」かどうかという論題のもとでディベートを行いました。

論題「日本の中学校・高等学校での政治教育の実施を義務化すべきである」


以下、前提条件

①全国の中学校・高等学校で義務化をする。 

②政治教育の一環として、模擬投票を行うことも可能とする。 

③中学校・高等学校共に、社会科目の中に政治教育を位置付け、単一科目とする。

④政治教育は、各中学校・高等学校の社会科教師が担当する。

⑤政治教育担当教師は、文部科学省指定教材に沿った授業を行うことが義務付けられる。

⑥公立・私立の中高で政治教育を実施する。

⑦中高でカリキュラムは変えない。

⑧中学での政治教育は必修として卒業単位に含む、高校での政治教育は選択必修とする。

⑨政治教育は単一教科とするが、記述式で評価される。(道徳と同じ立ち位置)

⑩政治教育の授業形態

 模擬投票・討論・話し合い・事例紹介など

⑪政治教育の中で扱う内容に関しては、対戦班とすり合わせを行うこと。

 日本と海外の政党や政治システムの比較・投票の経験・投票の必要性・日本の政治に対する理想像・現存政党の政策に関する是非など

肯定班の意見


 A班は、①社会への利点②生徒への利点③中立性の確保という3つの観点から政治教育の義務化に賛成する。①について、日本の若者は、政治に無関心な人が少ないにもかかわらず投票率が低いという現状があり、教育の義務化により投票率向上を狙う。また、政治教養を得る権利の平等を担保するためにも、政治教育の内容を義務化によって画一化することが必要である。②について、現在行われている知識学習を中心とした政治教育は若者の投票率低迷の要因になっている。義務教育のもとで、現実の具体的な政治テーマを扱ったり、模擬投票を行ったりすることは生徒の投票参加意識や政治参加意識の向上に有効である。③について、義務化されることによって指導内容が指導要領として一律に規定されること、そして指導内容は教育委員会等の監督によって中立が保たれることから、政治教育の中立性は義務化することによってのみ担保される。

 

 B班は、若者の投票率向上のために、中学校・高等学校での政治教育の義務化をする必要があると考える。日本では若者の投票率の低さが問題視されているが、それは若者の政治的有効性感覚(①個人の政治的行動が政治過程に対して影響を与えうる感覚、②市民自身が政治的、社会的変革を実行できる感覚と定義した)が低下していることに起因しており、若者の政治的有効性感覚が高い外国では彼らの投票率が高いことからもそれがうかがえる。そこで我々は、政治教育を義務教育として行うことで、複雑な政府や政治の仕組みを理解し、政治に対する意識を高める機会を広く与えることを推す。ワークショップなどの自主的参加が求められる機会では、もともと政治に興味がある人の意識を高めるだけにとどまるため、政治的有効性感覚、そして投票率を向上させるには、政治教育の「義務化」が必要であると主張する。

否定班の意見


 C班は、①中立性、②実現可能性、③単一科目の弊害の3つの観点から、否定的立場を取り、代替案として、既存のカリキュラムに政治教育の内容を組み込むことを提案する。①については、担当教員の裁量によるところが大きい。加えて、教科書も国の検定を必要とするため、中立性は確保するのが難しいと考えられる。②については、人材不足や準備量が増えることによる労働時間過多など、教員の負担になる。一方で、既存の他科目の学習内容が削減されることで、生徒側に対しても負担を強いられる。③では、生徒の成績を評価するマニュアルがないため、教師の思想や裁量によって評価される。また、生徒側も好成績を得ようとするため、教師の思考に寄り添った回答をする。その結果、教員の政治的思想が内面に反映されると考えることができる。

 

 我々D班は①現実性、②中立性、③有効性の観点から論題に対して否定の立場をとる。①については、多くの公立中学校で標準授業時間を超えて授業を実施しているので、このような体制のまま授業を行うのは教師や生徒の負担になると考えた。②については、政治教育の授業は特定の政党を助長し、圧迫し、干渉するものとなり教育基本法に違反する可能性があるだけではなく、憲法上保障される生徒の思想良心の自由を侵害しかねない。③については、政治的有効性感覚が日本の若者は他の先進国に比べて低く、これが政治への関心や投票率の向上を妨げている。「市民が組織に加入することで政治的関心・政治的義務感が強くなるが、これに伴い参加のコスト感覚も低くなり、政党支持や地域愛着度も強くなる」とする後期社会化説に基づいて考えると、中高生はそもそも日本社会への帰属意識が低いため、教育だけでは政治的有効性感覚は低くなり、帰属意識の向上は難しいと考えた。これらから、政治教育を義務化して行うことは現実的ではなく、若者の政治への関心・投票率の向上にもつながらないと考えられる。よって、学生にまず機会を与えることが必要だと考えられる。

所感


 今回のリフレクションは日程も厳しく、各班によって議論する点が大きく変わるため準備段階で苦戦した班が多かったようです。2020年度最後のディベートだったこともあり、サークル員、特に2年生は気合が入っていたと思います。今回の論題は政治教育を義務化するかどうかでしたが、政治への関心を強めるために必要なことは何なのか、改めて考えると難しい問題です。果たして学校の授業を受けただけで、中高生は政治について関心を持つのか。「きっかけを作る」だけで、政治的有効性感覚を育てられるのか。政治教育を義務化してしまうと、中立性が担保されないのではないだろうか。考え始めるとキリがないですが、大学生になり選挙がより身近になった今こそ、また新型コロナウイルスによって生活が大きく変わった私たちこそ、今政治家の方々が何をしているのかを知ろうとするべきだと思います。

 

文責:各班班長(2年)