2017年度 第1回フィールドワーク

池上駅周辺散策・古民家カフェ蓮月


 6月25日、池上駅周辺の商店街や古民家カフェ蓮月を訪れました。今回のフィールドワークは、第2回定例会テーマの「住まいの未来~資源としての空き家~」に関連し、空き家にどのように価値が付加されているのかを学び、空き家の魅力について触れることを目的としました。

池上駅周辺散策


 東京都大田区にある池上駅の周辺は、東京都内でも空き家率が高く、空き家率の減少に向けた取り組みが地域の人々によって行われています。今回のフィールドワークでは、リニューアルされた商店街や住宅地を散策し、比較的新しい店やシャッターが閉じている店、かなり年季の入った住宅を目にしました。散策途中に何度も地元の人がのんびりと散歩する姿を見かけ、落ち着いた街の雰囲気を感じることができました。

古民家カフェ蓮月のオーナー輪島基史氏との対談


1.輪島氏と「蓮月」の出会い

 輪島氏は、古着屋を営むうちに、次第に洋服への情熱よりもお客さんと交流することへのやりがいを感じるようになりました。お客さんの中には、家庭内で孤独感を抱く高校生も多くおり、自分の経営するお店で家族のようなコミュニティを提供したいと考えるようになりました。しかし、彼らにただ居場所を提供するだけではなく、自らコミュニティを生み出せるような人に育てたいと思い、その方法を模索する中で「蓮月」に出会いました。「蓮月」は昭和初期に建てられ、長年地元の人に親しまれてきた蕎麦屋でした。しかし、先代は高齢のため引退し、存続が危ぶまれていました。そのような時に地元の人から「蓮月」を紹介された輪島氏は、「蓮月」を残したいと願う地元の人の期待に応え、且つ思い描くコミュニティを作るために「蓮月」をカフェとして再建することにしました。

2.古民家カフェとしての「蓮月」再建

 輪島氏は、家族のようなコミュニティを実現するため、あえて居住地域や年齢といった客層を限定せず、誰にでも受け入れられるカフェのオープンを目指しました。輪島氏のコミュニティ作りへのこだわりには、子供の頃に近所の方々と水入らずの関係で交流していた経験が大きく影響しています。多くの人と交流をしたことで人を見る目が養われたという経験が今の輪島氏を形成しているとの思いから、現代の子供にも同じような経験をさせてあげたいと考えるようになりました。

3.古民家カフェ「蓮月」のこだわり

 古民家カフェ「蓮月」は、古い住居を利用していますが、輪島氏のこだわりが反映された内装のおしゃれさが評価されています。古着屋を営んでいた頃の経験から、装飾にこだわりすぎるず、以前の蕎麦屋としての「蓮月」が活きるようなシンプルな内装にすることで、安らぎと洗練した印象を併せ持つ内装を実現しました。カフェは2階建てになっており、階ごとにコンセプトが異なります。1階はカフェとして大きく改装され現代らしさを感じられるようになっており、2階は蕎麦屋の頃の内装をほとんど変えず古民家文化を体感できるようになっています。 

4.「蓮月」の存在

 当初、蓮月の保存状態は悪く再建への道のりは険しいものでした。しかし、長年蓮月を見守ってきた地元の人々の日常を守りたいと思いから、「蓮月」の再建を始めました。「蓮月」周辺の住居は、古い住居を取り壊して新しい住居を建築してきたため、街の景観は時代とともに変化してきました。その中で84年間も存続してきた「蓮月」を残していきたいと思いから、輪島氏は地元の人たちで結成した再建プロジェクトのリーダーを引き受けました。しかし、蓮月はかなり築年数が古いため再建工事には高額な費用がかかり、現在でも定期的なメンテナンスが必要です。それでも輪島氏が蓮月の経営を続けているのは、多くの人に日常の幸せを提供したいという強い思いがあるからです。輪島氏はカフェを始めた当初、日本の飲食店の過剰なサービスに疑問を持ち、そのようなサービススタイルに蓮月を合わせるべきか悩んだそうです。輪島氏は、お客様が対価を支払うという意識だけでなく、お店、いわば人の家のルールを守ろうという謙虚な気持ちを持つことで、「蓮月」をより幸せな空間にでき、そのことが日常生活の幸せにもつながると考えています。このように輪島氏は、「蓮月」が人と人との心のつながりを伝承する場となることを目指しています。

所感


 日本人は新しいもの好きであり、住居も新築物件を好むという傾向があるため、私自身も住居は新築物件が良いと思っていました。しかし、古民家にも昔ながらの良さがあり、以前住んでいた人たちとのつながりを感じることもできます。古民家カフェ「蓮月」は改装をしているものの、昔ながらの様式や落ち着いた雰囲気に触れることができました。輪島氏の「人と人のつながりを伝承していく」という目標は、昔から存続している「蓮月」だからこそ目指すことができるのだと感じました。

 

文責 小嶋万里佳