2016年度 春合宿GroupD

人口減少とこれからの日本~労働人口の増加~

髙本和幸氏(ヒューマンタッチ株式会社代表取締役)


  215日、春合宿にて「人口減少とこれからの日本~潜在労働力と職を結ぶには~」というテーマのもと、ヒューマンタッチ株式会社代表取締役の髙本和幸氏をお招きし、勉強会を行いました。

講師略歴


 大学卒業後、1998年現ヒューマンリソシア()に新卒入社。1年後にアシスタントマネージャー、3年後にマネージャーに昇格し、2002年札幌支社拠点責任者を務める。その後、2007年首都圏マッチング部責任者として異動し、紹介営業部責任者・人材紹介営業部チーフマネージャーになる。2012年ヒューマンリソシア()より分社化したヒューマンタッチ()へ転籍。2014年ヒューマンタッチ()代表取締役に就任し、現在に至る。

新しい目で建設業界を見る


 勉強会の冒頭に、ドローンを用いて建設現場を上空から撮影し、建設現場の人々の声が収録されたプロモーション動画が上映された。普段は塀に遮られ、見ることができない建設現場の光景や、普段は聞くことのない現場で働く人々の生き生きとした声を見聞きし、我々の持つ3Kのイメージは一面的な固定観念であると痛感した。

建設業界の人手不足


 日本は人口が減少しており、今後は労働者不足問題が深刻化することが懸念されている。人手不足の程度は分野ごとに異なるが、特に建設業界の人手不足は深刻な状況にある。東日本大震災の復興や東京オリンピック開催に伴う建設需要増加により、労働者不足が顕著になった。しかし、依然としてこの需要の高まりを乗り越えてもなお、労働者不足が継続すると予想される。その原因として、第一に建設業に就く若者が少ないことが挙げられる。第二に人材の高齢化が進んでおり人材の約3分の155歳以上であるため、今後10年ほどの間に多くのベテランが退職することが挙げられる。

何故建設業界は慢性的に人手不足なのか


 若者が建設業に集まらない大きな原因として、建設業に対するイメージの悪さがある。「賃金が割に合わない、労働環境が悪い」という、負のイメージが強いのである。ヒューマンタッチ株式会社の調査によると、建設技術者が持つ最大の不満は給与の額であり、職場の環境や仕事内容への不満も多く存在する。また、労働者の不満内容には年代ごとに異なる傾向がある。このような傾向に企業が対応できていないことが、労働者の定着率を悪化させていると考えられる。加えて、建設業の技術者のキャリアアップには資格の取得が欠かせないが、技術者に資格所得のためのコンテンツ提供や手当ての支給ができていない企業が多く存在する、という課題もある。

建設業界の人手不足解消を目指して


 建設業界の人手不足を解消するためには、技術者を企業が採用するだけでなく、技術者を育成・定着させる必要がある。そのため、技術者確保に向けて、建設業に対する悪いイメージをメディアを活用して払拭するほか、短い工期を守るために残業や休日出勤が多いという現状を改善し、良好な労働環境を整備するなど、企業が働き方改革を行うことが必要である。また、女性が働きやすい労働環境の整備もなされるべきである。さらに、新しい技術の活用(例:ドローンを使用した測量)により生産性を向上させることも有効であると考えられる。そして、企業が労働者の要求や求職者の情報に対してより敏感になる必要がある。なぜなら、企業が労働者の要求に対応できなければ労働者の定着は望めず、企業と求職者双方が求める条件が一致しなければ採用は実現しないからだ。企業と求職者マッチングを行う人材派遣会社は、人手不足の建設業界において特に必要とされていると言える。

質疑応答


Q1.他の業界から建設業への転職者が増えているのは何故ですか。

A1.各企業が建設業界での経験がない人の採用を積極的に行ってきたこと、かつて人材過剰のために他業界に転職した建設技術者が建設業に回帰していることが主な理由だと考えられます。

 

Q2.材紹介会社に登録する求職者は建設業の企業に対してどんなイメージを持っていますか。

A2.登録に来る求職者は、建設業の経験者がほとんどです。彼らは次に勤める企業に、転職前の企業に抱いていた不満の解決を求めています。

 

Q3.建設業界の重層下請け構造が最下層へのしわ寄せを生み、現場の労働環境の質と賃金を下げていると聞きます。そのような問題意識はありますか。

A3.依然として重層下請け構造は問題ですが、今こそ、これを解決する絶好のチャンスであると言えます。建設需要の伸びにより大手ゼネコンは好調なので、その潤いが最下層まで到達すれば、労働環境や賃金の問題解決が望めます。また、下層の企業は、自社の技術力のアピールや新技術の開発によって、新たな付加価値や収益を獲得できるようになるのではないでしょうか。

 

Q4.政府は女性の活躍を促進しようとしているが、現状として建設業界は男性が中心だと思います。実際のところ、女性の活躍は進んでいるのですか。

A4.女性労働者の数は増えてはいるが、その増え方は緩やかです。経験と体力が必要な技能工よりも、設計や施工の管理・監督をする技術職の方が女性が活躍しやすいと考えられます。しかし、政府は今後人材が必要とされる技能工の増加に注力しています。

 

Q5.建設業界において、オリンピック需要が尽きた後、労働者は一時的に過剰になるのでしょうか。

A5.オリンピック開催による需要は減少するものの、2027年開業を目指すリニア関連の施設や、各新幹線、カジノ法案可決後の統合リゾート施設などの建設需要が拡大すると考えられます。また、老朽化するインフラや建築物の修繕のための人員が大勢必要になると予想されます。従って、オリンピック開催後に労働者が過剰になることはないと考えられます。

 

Q6.人口減少により、建築需要そのものが減少するのでしょうか。

A6.現在既に空き家問題があり、新築の需要は減少すると考えられます。それに応じて、既存の建築物に対するリフォームの需要は拡大していくと予想されます

所感


  今回の勉強会を通して、建設業界の労働者不足の現状と原因、さらに、その解決策の方向性について学ぶことができました。また、私たちが持っていた建設業に対するイメージが必ずしも正しくはないことを知りました。今回の勉強会をきっかけとして、これからの日本に付き纏う労働力不足の問題について考えを深めていきたいと思います。

 

今回ご講演いただきました髙本和幸様、ありがとうございました。

 

文責 井上諒