2019年度 特別学習企画②

「介護」を様々な観点から考える


 5月31日、日吉キャンパスにて、第2回テーマ「変わりつつある介護社会」の特別学習企画として、介護問題についての自由議論を行いました。今回は、複数人の10期のファシリテーターを中心に議論が展開されました。

介護×経済、ビジネス


 高齢化の影響もあり介護市場は年々拡大しています。営利法人によるサービス提供が増加している一方で、地方公共団体によるサービス提供は伸び悩んでいます。そうした現状に対する分析として、公定価格での価格設定による市場原理の成り立ちにくさ、介護・医療間の連携の無さなどが挙げられました。

低所得者層や中間層への介護ビジネス増大のために


 先ほどの話に沿って、「低所得者層や中間層への介護ビジネス増大のためにはどうすればよいか」という論点に対して議論が進められました。

 その議論では、「一般的に、民間企業がビジネスに参加する際には介護士に高い給料を払う。しかし、利潤の最大化や介護サービスの低廉化のため企業は結局介護士の賃金を減らそうとしており、これが問題点である。高所得者向けには、多くの介護サービスをオプションとして提供し、高いサービス料をとることで採算を見込めるが、低所得者層・中間層では、そのビジネスモデルは通用しない。そこで、企業は介護サービスを低廉に提供しつつ、サービスの量的低下を目指せば、中間層・低所得層に対してのビジネスを増大できるのではないか。」という意見が出ました。

介護×外国人労働者


 被介護者は年々増えていく一方で、労働人口の減少が進む日本で介護者数の今後の伸びは期待できず、介護需要の過多となるであろうという予測が厚生労働省によって立てられれています。そのため、政府は外国人労働者を介護に起用しようと考え、改正入管法で「特定技能」に「介護」を新設しました。政府によると、これにより5年間で最大6万人の外国人労働者を受け入れられるそうです。

 外国人の受け入れ手段としては、①EPA(経済連携協定)、②在留資格「介護」、③介護職種の技能実習、④特定技能と様々な制度があります。しかし、言葉の壁や求められるスキルの高さ、外国人労働者の処遇や介護施設の受け入れ態勢など、様々な問題点があります。

介護における外国人労働者の起用を促進させるためには


 前項の話を踏まえて、「外国人労働者を起用して介護問題を解決させるにはどうすればいいか」という方策案について、議論し合いました。

 そこでは、日本語の習得と介護の実習を行える学校のような施設を作ることで、言葉の壁を解消しつつ介護教育をしていくという案や、被介護者自身の、「外国人労働者に介護されたくない」という考え方を変えていくという案、外国人労働者だけが働いている介護施設をつくるという案、世界共通の介護用のマークを作る案、さらに養護学校や幼稚園などと連携していく案がありました。

介護×死生観


 人工呼吸器の延命治療などを初めとする重度の病での介護の継続は、介護者の負担となり被介護者の苦痛を長引かせる恐れがあります。そういった中で、尊厳死は、「自己決定権の重視と患者の耐え難い苦痛」を考慮して生まれました。

 尊厳死を正当化する権利として、死ぬ権利というものがありますが、現在その許容性や許容範囲について議論がなされています。特に安楽死について多くの議論がなされていますが、その種類として①消極的安楽死、②間接的安楽死、③積極的安楽死という3類型があります。

 安楽死のなかでも、必要とされる手順を踏まなかったために裁判になった判例(名高判昭和37年12月22日高刑集15巻9号674頁)があります。また、記憶に新しい「相模原殺傷事件」では、NHK記者と犯人との対話の中での犯人の言動(1)が話題となりました。「(被介護者の生きることによる)幸せは、誰かの不幸の上にある」という発言や、「重度の障害者は意思疎通が取れないので存在自体が不幸なんです」といった発言です。

 

※(1)『障害者殺傷事件 植松被告が「答えなかった質問」 けさのクローズアップ』NHKニュース おはよう日本、2018年1月25日(最終閲覧日:2019年6月3日)

URL:https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2018/01/0125.html

被介護者の死について~多角度からの考察~


 これらの事例を踏まえて、「被介護者にとって生きるとは何か」「延命と自然死について」「安楽死の事例」「障害者への差別」等について議論しました。 

 そこでは、安楽死は延命措置に並ぶ選択肢として与えられるべきという意見や、安楽死を選択したいという意思も尊重すべきだという意見が出ました。しかし、安楽死が認められた状況では、安楽死と延命治療の選択肢のうち安楽死を選ぶのが当然だ、という風潮になってしまうことを懸念する意見も出ました。

まとめ


 現在、ビジネスとしての介護の市場は大きくなっていますが、採算が見込めなかったり、医療との連携が難しいという課題が上がり、広く介護ビジネスを普及させるためにはそもそも介護ビジネスの仕組み自体を変えることが必須という結論に至りました。

 また、年々増加している外国人労働者については、言葉の壁を除去することや被介護者の理解が必要だという現状がわかり、日本語と介護技能を同時に学べる学校をつくったり、世界共通の標識を作るといった画期的なアイデアもあるのではないのかという結論になりました。

 さらに介護と死生観の問題では、被介護者の心的苦痛と身体的苦痛をどこまで推し量るべきかということや、被介護者の心的苦痛についても考慮の余地があることを学びました。さらに、「安楽死」という一つのオプションを、延命医療と並んだ形で「選択肢として」入れるべきだという意見が出ました。

所感


 今回の特別学習企画では、介護×◯◯という形式で3つのテーマを深掘りしていきました。こういった複合的なテーマは、それぞれの知識と発想が求められるため難しいことも多いですが、皆が自由議論の中で積極的に発言できていたことは素晴らしいことだと思います。

 今後、我々サークル員は介護者となる可能性が大いにあります。だからこそ、この問題を今から深く考えておくことが必要だと考えます。来週のリフレクションにおいても、皆の活発な議論を期待します。

文責:松成 拓