2015年度 第7回リフレクション

一億総活躍社会 ~農林水産業~

論題「農林水産業分野で市場10兆円就業者5万人を創出するために国はどのような施策をとるべきか」


立論


【中井班】

 農業の零細化と後継者不足が喫緊の課題となっていることから、国が主導して農業の法人化を行う。具体的には、地域ごとに一つの農業法人を置き、そこに勤務している人が各地の農地を職場として派遣されるシステムをとる。法人化により農業だけでなく経営のノウハウも同時に活用できる。加えて、就農へのハードルが下がり、就業人口が増加する。また、後継者を法人の構成員から選ぶことが可能なため、後継者不足の問題も解決できる。そして、利用されていない土地を組織として買い取り、農地を再生させることで、物的資本の拡大を図る。

 

【宮田班】

 就農者の経営・運営知識の欠如がみられることから、国は農業従事者に対してコンサルタントを雇う。そのため、就農者は無償でコンサルタントサービスを受けることが可能となる。一方、コンサルタント会社は法人税を減税される。また、国は市場の拡大によって税収の増加が見込まれるため、就農者・コンサルタント会社・国のどの3主体にとっても負担をかけずに政策を推進していくことができる。この政策により、経営力の向上が図れ、それが所得を増加させ、農林水産業における所得の不安定さを背景とする労働者不足や新規就業者数の低迷を克服できる。

尋問


【中井班】

 1. コンサルタントはどの規模の農家に対して行うのか。コンサルティング内容は(経営だけなのか)。どうやってコンサルタントを選ぶのか(国が指定するのか、農家が募集するのか)。コンサルティングの期間はどのくらいか。2. 法人税率はどのくらい引き下げるのか。3. コンサルタントを雇うのは任意か。

 

中井班の尋問に対して、宮田班は以下のように回答しました。

 

 1. 一つの都道府県あたり5.7人のコンサルタントを置く。コンサルティングの内容は経営を含め、全般に及ぶ。コンサルタントは農家が募集する。2. 現在25.5%である法人税率を23%にカットする。3. コンサルタントを雇うのは農家の任意であり、強制ではない。

 

【宮田班】

 1. 法人化の主体は。2. 農業法人の定義は。3. 精神的・物理的ハードルの定義は。4. 法人はずっと国が主導するのか。5. 農業に関心がある人とは、どういう人を指すのか

 

宮田班の尋問に対して、中井班は以下のように回答しました。

 

1. 主体は国であり、農家に専業・兼業などのくくりはない。2. 旧国鉄のように、国が主導する大きな会社のこと。3. 物理的ハードル:金銭 精神的ハードル:農業そのものや収入の不安定さ4. 十年を目途に民営化する。5. 農業をしたくて、好きである人。

反駁


【宮田班反駁その1】

・国が法人化する財源はどこから出すのか。

・農業をしたい理由の第1位は采配したいという理由であり、単に好きな人を対象にしても効果は薄い。

・農業法人化は既に行われているが、改革に至っていない。拡大してプラスの効果があるのか

・農業を法人化しても、農地に対しての人手や資金が増えるわけではなく、農地の有効活用との因果関係が不明確である。

 

【中井班反駁その1】

・農業従事者は高齢者が多く、コンサルタントに経営を任せる体力や資金がないのではないか。

・コンサルタント会社の法人税をカットすることで政府の財源が減る。

・企業は部門に分かれるため、単に農業が好きな人だけでなく、ビジネス志向の人の参入も見込める。

 

【宮田班反駁その2】

・コンサルタントを雇うのは無償であるという点から、農家がコンサルタントを雇わないというのは考えにくい。

・農協の農薬を使うと月の稼ぎが5万円だが、独自で農薬を仕入れると5倍の収入となり、所得が安定ではなくなる。コンサルタントによって農家の背中をおすことが大事である。

・1万人のコンサルを雇うと人件費は約70億円。法人税をカットすると80億円の利益となる。コンサルタント会社は10億円得するため、農業分野への参入が十分に見込める。

・法人税を減税することにより税収が減るという点に関しては、海外輸出によって賄う。

・農協の介入がネックとなっている場合が多く、法人化しても農協と変わらなければ意味がないのではないか。

・地域など規模が大きいと縦割り行政になってしまい、様々な問題が生まれる。

 

【中井班反駁その2】

・コンサルタント会社は別の業界へ流れてしまうのでは。

・農家の約80%は兼業であるため、農業からの収入はマイノリティ。そこにコンサルタントを雇う効果は薄いため、新規参入は見込めないのではないか。

・今でも農家の知識不足を補うもの(相談窓口等)はあるが、それはあまり使われてない。そのため、無償であっても認知度が低ければ、政策の効果がないのでは。

・農協と併存するわけではなく、全く関係のない一企業として活動していく(農協は解体する)。   

自由議論


【自由議論】

 宮田班

・国として政策としてコンサルタントを雇うことや企業の社会的貢献を考えれば、コンサルタント会社は参入すると考えられる。

・つらいイメージがある中で片手間でも農家をしているいうことは、農業が好きだからであり、儲かるとなればコンサルタントを雇う。

・コンサルタントを雇うという政策も、効果があれば放置されない。

・現状として、法人が多いのにも関わらず、農業市場は拡大していないのではないか。

・農協が存続する限り、海外進出などの分野で大きなネックになるのではないか。

・地域だと規模が多すぎて縦割り行政などの問題が生まれるのではないか。また、信頼関係を反映させることができず、自由な農業ができないのではないか。

 

【中井班】

・土地を集約し生産性を上げることが可能なため、農業の法人化には有効性が認められる。実際に海外輸出も増えている。

・高齢者は基本的に年金で暮らしているため、農業分野の収入を拡大する必要はないのではないか。

・農家には高齢者が多く、経営を変えるというのは困難ではないか。

・10年を目処に農業法人を民営化するため、規模の大きさから引き起こされる問題や農業法人が農家のネックになるといった問題は解決できるのではないか。

所感


 今回のディベートでは、論理性・有効性・実現性の観点で、勝敗を判断しました。実現性の面で宮田班が少しだけ上回り、収入の安定という有効性の面では中井班が上回るという結果になりました。審判からは、中井班に関しては「法人化の規模が大きすぎて縦割りになってしまうのではないか」、「市場の活性化や財源が不透明である」、「経営志向の人を取り込めず、新規参入者が見込めないのではないか」という声が聞かれました。また、宮田班に関しては「コンサルタントを雇うことと、現状のバックアップシステムや相談窓口との違いがみられない」、「なぜ農業のみにコンサルティングの対象を絞ったのか」という声が聞かれました。また、両班の間で、農協の存在・認識に相違があり、ディベートを行う前に立論の前提をすり合わせておくことが非常に大事であり、議論の深みも変わってきてしまうということを感じました。

 

                                         文責 宮寺ひとみ