2013年度 第10回勉強会

人口減少社会 ―「極点社会」にどう対応するか―

増田寛也氏(株式会社野村総合研究所顧問)


 2月4日、オリンピックセンターにて「人口減少社会において日本が安定して成長するために」というテーマのもと、株式会社野村総合研究所顧問の増田寛也氏をお招きし、勉強会を行いました。


危機的レベルの人口減少


 日本の人口は今後100年で歴史上類を見ないほど急激に減少する可能性がある、と増田氏は述べられた。この人口減少は容易に止まるものではないという。なぜなら、人口を維持できる合計特殊出生率は2.07であるのに対し、現在の日本の出生率は1.41と低く、さらに出生率が1.5を下回っても人口回復できた国家は少ないからだ。また仮に出生率が回復しても、その時点では女性の母数自体は少ないままで、人口が増加に転ずることはない。もはや日本の少子高齢化問題は出生率ではなく、女性の数そのものを考えなくてはならない段階に入っているのだそうだ。


「人口移動」が減少に拍車をかける


 すでに若年層の人口減少が始まっているなか、日本の人口減少は老年層の動向によって段階的に進むそうだ。現在は老年人口が増加しているため、生産・年少人口の減少は覆い隠されている。日本全体を見ると2040年ごろに老年人口の増加は止まるため、人口減少の影響は顕著になっていくであろうが、実は現時点ですでにこの段階に突入している市町村も一部には存在するのだ。人口減少が都市部では比較的穏やかに進行しているのに対し、地方では急激なペースで進んでいるのである。


 なぜ地域ごとに差があるのだろうか。これは高度成長期以降に日本で三回起きた、若年層の「人口移動」に起因するとの事である。あまり注目されていなかったことだが、高度成長期、バブル期、そして2000年以降の時期に、大勢の若者が進学・就職のために地方から都市部、とくに東京圏に流入している。しかし、移動先の東京は住宅事情や保育所不足などの問題から出生率は1.09と極めて低く、若者が東京に流入するほどに人口減少が加速する、という構図が出来上がってしまっていたのだ。


「極点社会」の到来


 今後30年で若い女性の数が増加する自治体は全国でわずか0.7%にすぎず、大半の市町村で女性は減少する、と増田氏は続けられた。なかでも、減少度合いが5割を超える373自治体は消滅を免れにくい、と言うほかはないそうだ。しかもこれは「都市部への人口流入はいずれ収束する」という見解に基づいた楽観的な試算であり、東京と地方の所得格差を考えると人口移動は収束しない恐れがあるため、消滅可能性の高い自治体数は373を大幅に超えることも考えられるのだそうだ。大都市圏に日本全体の人口が吸い寄せられ、地方が消滅していく「極点社会」が日本の行き着く姿である。


安定成長のために


 他国の首都と比較しても東京の人口集中度は異常に高く、極点社会を回避するためには新しい広域連携の構想が必要だとのこと。具体的には人口40万人以上の都市を「地方中核都市」に指定し、都市圏への若者の流出を阻止するために資源・政策を集中的に投入するのである。そして、たとえば東北は国際科学研究、北陸はハイテク農業、九州は医療産業集積といった具合に、地方ブロックごとにテーマを打ち出して開発を行わせ、グローバル戦略をつくるのだ、と説明された。


 また、大学・大企業の一極集中が極点社会化の大きな原因であるので、地方大学の機能強化や、地域の特性を活かした自立的な産業を創出することも課題であると言う。このように全国各地が東京圏の「下請構造」から脱皮したとき、東京は従来のような、地方人材に依存した発展はできなくなる。そこで東京をインド・中国・シンガポールなどから人材を補う国際都市に改革し、地方へのゲートウェイとして機能を見直すのが有効であろう、と増田氏はおっしゃった。


 仮にいますぐ出生率が2に回復しても、生まれた子供が生産年齢に達するまでに時間がかかるため、労働力人口が増加に転じるのは早くて30年後。このような状況では、短期的には人口減少を前提とした、マイナス面の極小化を図る「撤退戦」を強いられることは避けられないのだそうだ。しかし、東京への一極集中を緩和し、地方中核都市が有機的に結びついて支えあう政策に転換すれば、これらの都市のつながりは「防衛・反転線」として機能させることができる、と話された。


行政のありかた


 社会にある様々な課題を「自助・共助・公助」という考え方で分類すると、家族で解決すること(自助)、地域で解決すること(共助)、税金で解決すること(公助)となる。自助でも共助でも解決できないことをするのが、本来の公助なのだという。ところが、国がゴミの分別までやるといった具合に、何でもかんでも公助で行うという時期があったため、国民は公的支援に頼るようになってしまった。人口減少下での国家戦略を考えるとき、今一度「公助」を「自助」に戻すことも積極的に推進していくべきであると増田氏は述べられた。


地域活性に向けて


 地域力というのは以下の方程式で表すことができるという。


地域力=人材力+資源力+情報


人材力=(能力×やる気)+つながり力(ネットワーク)

資源力=天然・自然由来のもの+歴史・文化・伝統

情報=物語力


 地元の人材の中でも、「東京と比べてウチにはアピールポイントが無い」などと言う人は、方程式中の「やる気」の項にマイナスを加えているそうだ。そのため、どんなに「能力」の高い人材でも、「やる気」が欠けていれば「能力」を活かすことができないとのお話も下さった。また物語力とは、地域独自の歴史や文化、伝統をどのように伝えるかの指標のこと、と増田氏はおっしゃった。


質疑応答


Q1. 極点社会でもメリットがあるのでは?

A1. 極点社会は東京が地方の人材を吸い上げる構図なので、地方都市が荒廃してしまう。これは多様性の喪失、ひいては国家の尺度の単一化につながりうる。


Q2. 極点社会回避のためにはドラスティックな政策でも打ち出さないと効果がないのでは?

A2. 日本は民主主義国家なので、人や企業を強制的に地方へ移動させることはできない。誘導が関の山だ。しかし、「補助金」の体裁では効果を上げることが難しくても、「税」という形ならば効力は生まれる。時間はかかっても、地方で企業活動を行うことを評価する税制をつくることが必要。


Q3. 道州制ならば極点社会を回避できないか?

A3. 統治機構自体を変えることにアレルギー反応を示す人も多く、道州制という言葉を持ち出しただけで議論が進まなくなる恐れがある。また、道州制は基本的に経済成長モデルであって、人口減少への対応とは向きが異なる。関東州などをつくれば財政格差は一層広がってしまうだろう。そうではなく、地方ごとにビジョンを打ち出し、県境を越えた連携のとれるシステムづくりが一番大事なのだ。


Q4. 一点集中を解消したとき、技術開発やイノベーションに影響はないか?

A4. イノベーションで重要なのは場所よりも環境である。地方企業であっても世界レベルのイノベーションを起こさなければ生き残れない時代であり、また世界を見据える視野はどこにいても得られるものだ。逆に得がたいのは周りの人からのサポート。イノベーションの考案者がまず努力し、そこに優れたサポートが加われば必ず技術発展は起きる。


所感


 「人口移動」「極点社会」など、全く新しい観点から人口減少問題を論ぜられており、少子高齢化の実態が深く理解できるようになりました。また、「岩手県知事をつとめた十二年間は東京との格差解消に格闘し続けていた」とのお言葉からもわかるように、語られた事例の一つひとつが重みを持っていました。


ご講演いただきました増田寛也様、本当にありがとうございました。


文責:東恩納 麻州