2011年度 第6回勉強会

日本の経済成長と幸福度

磯山友幸氏(硬派経済ジャーナリスト)


 日経新聞でご活躍された実績を持ち、現在では硬派経済ジャーナリストとしてご活躍されている磯山様に、ブータンを訪れ見聞きし感じられたことを通じてお話をしていただいた。


「幸せの国」ブータン


 日本の政治家の中には、豊かさのみを求めるのではなく、「最大幸福より最小不幸」と言われるように、底上げを目指す政策を指示する傾向が見られるようになった。しかし、まだまだ経済成長を求める傾向にある日本に比べ、ブータンでは成長はあまりみられなくとも、国民は幸福である。また、ブータン国民以上に国外、特に先進国と言われる国の人たちによるブータンの評価は高い。 ブータンでは、首都の人口は増加の一途を辿っている。よって首都に高い建物が次々と建設されるのだが、部屋がすぐに埋まる程にそのスピードは目を見張るものがある。実際に成長率は中国等と同程度に高い。

 

 しかし、貿易に関しては赤字が続いている。その赤字分に関しては、諸外国からの援助によって成り立っているのが現状である。ブータンとしても、経済面での(貿易赤字に関しても)独立の重要性は十分に理解しており、また、GDPについても良く理解している。しかし、それ以上にGNHの大切さを主張している。 GNHには「持続的な経済発展と開発」「伝統文化の保護」「環境の保全」「グッドガバナンス(国会は近年発足した)」という4つの柱があり、これらを重視した国家運営がなされている。

 

 ブータンは、その独自の文化を保つためにも国境線を強く保っている。しかし、中国・インドに挟まれているため、国境線を少しでも緩めてしまったら一気にどちらか(おそらく中国)に文化的にも経済的な面でも飲み込まれてしまうだろう。そのような事態を避けるためにも少しずつ自力で成長していっている。 

 

 また、ブータンの強いポリシーの一つとして、「地方で農業をやっている人たちを疎かにしない」ということがあげられ、更なるGNH上昇の為にも、細かいアンケートを全国に取りに行き、地方の想いを細かに汲み取り、国民のニーズを国の運営にフィードバックさせることで、地に足が着いた成長を目指しているのである。特にインフラ整備によるアクセスの平等を図っていく予定である。現在はまだ、首都から少し、それこそ50km程離れていまうと交通網が未整備な地となってしまう。今後、国内全体を幸せにしていくには、全体がつながる必要がある。従って、相当の土木工事が必要になると考えられる。

 

 文化に関しては、民族衣装を着用し、伝統的建築様式を規定して一般の民家は皆屋根を緑に統一するなど、国全体で統一感を持たせ、後世へ継承させるための努力を行っている。公務員の格好も民族衣装であり、それは外国に公務で行く時にも変わらない。また、右の腰に剣をさしている。これは昔の日本で言う武士のような、階級を表すものであり常に着用している。 また、西洋の人、先進国の文化にどっぷりと浸かっている人が沢山入ってこないようにコントロールしている。それにより急激な変化をや文化侵略を防いでいるのである。観光収入はブータンにとってかなり重要ではあるが、外国の文化を入れてしまってブータンらしさを失う訳にはいかない。その微妙な舵取りが今なされているのである。

 

 ブータン国民と宗教とは密接な関わりがある。国民の一般家庭には仏間があり、その部屋が一番神聖とされている。宗教施設では、念仏唱えながら仏塔の周りを回ったり、五体倒地をする人の姿も見られる。経文を書いた車(マニ車)が街を出入りする通りをはじめ、至る所にあり、人々はそれを回す事で祈りをささげている。生活の中に宗教が深く根付いており、特にお年寄りは宗教的な生活をしていて、娯楽のための消費は少ない。 一方で、若い人の考え方は変わりつつある。その若者たちが今後どのように社会を変えるのか、ということが注目されている。

 

ブータンと日本


 最後に、磯山様はブータンなりの幸福度と、日本の今後の経済発展と幸福度についてお話しして下さった。ブータンはじわじわと全体を成長させつつ、幸福度を保っており、日本との最大の違いは格差の有無であると考えられる。 


 今までの日本では、高所得者から税金をとり、低所得者への再分配を行う事で、格差の緩和を講じて来た。しかし、そのシステムでは補いきれなくなっている。このような状況になったとき、今の日本はあまりにもろいのではないだろうか。働ける者が懸命に働いて納税し、低所得層を支える。その現状に限界が来るのを前に、ブータンが経済成長以上に大切にして来たものは何であるのかを熟考する時ではないだろうか。