2019年度 第5回リフレクション

観光立国を目指して民泊を考える

~オリンピックの民泊問題と共に~


 

 11月1日、日吉キャンパスにて、第5回テーマである「観光立国を目指して民泊を考える~オリンピックの民泊問題と共に~」についてディベートを行いました。

論題「日本政府は民泊新法を改正し、規制を撤廃するべきである。」


 東京オリンピックを翌年に控えた2019年度現在、東京を中心とした各宿泊施設では2020年に深刻な空き部屋不足が予想されています。そこで、この問題の解決への糸口とされているのが民泊です。しかし、日本では民泊に対する規制が厳しく諸外国と比べて普及していないのが現状です。今回のディベートでは民泊新法における規制のうちの「年間営業日数180日以内」に着目し、問題を根本から見直して「本当に民泊は日本に必要なのか」を日本の国益に照らし合わせながら討論しました。以下、肯定側・否定側において挙げられた論点を紹介します。また、否定側が挙げた代替案も掲載します。

肯定派


・現在日本では観光立国化を目指し、訪日外国人の取り込みを狙っている。しかし、短絡的にみると、ホテル数が足りておらずオリンピック時には最大12,000室不足するため民泊が普及すればホテル不足を補えるというメリットがある。さらに長期的な目線で見ても、民泊は実際に使われている建物に宿泊するなどの特別な体験を提供できるため、訪日外国人の幅広いニーズをうまく取り込むことができる。他にもホテルと競合するという話もあるが、そもそもホテル業界は深刻な人で不足に悩まされており試算によれば13万人不足する。つまりホテルでは訪日外国人を十分に取り込むことが難しいので、従業員が少ない民泊を活用することで訪日外国人の受け皿となる。

 

・民泊の規制解除によって民泊が増えると観光客の経済活動がになるといえる。東京において、民泊の宿泊料金の平均はホテルの宿泊料金の平均よりも127ドルも安い。そこで浮いた宿泊費を宿泊者は交通費やお土産代、食費などの費用に回せる。消費が増えるとなると、その地域経済の活性化につながる。他にも、農業や日本の文化などを 体験できる体験型のツアーと抱き合わせで民泊を販売するケースが増えてきており、Airbnbなどではそのような「体験」をサービスとして同じプラットフォームで販売する動きが出てきている。

 

・高齢者が自宅を民泊として解放することで、老後の生活向上や社会活動への 参加が促される。こうした民泊では、宿泊者はその地域で長年親しんできた高齢者を中心とした地域住民と交流することができるため、民泊そのものが観光資源になりえる。また宮島(厳島)では空き家が観光地の街並み保存に悪影響を及ぼしており問題となっている。観光地での空き家を活用した民泊は、こういった問題の解消にも繋がる可能性があり、遊休資産による機会損失も避けられる。

否定派


・現在、行政は法規制の枠外にあったプラットフォーマーに登録制を導入した。これは法令に違反した行動を繰り返すホストには登録取り消しもあり得る制度で、届け出よりも厳しい規制である。こうした民泊への規制は、ホストに対するハードルを上げ、闇民泊の拡大を抑えられる。例えば、今年都内の部屋に覚醒剤を郵送した容疑でカナダ国籍の男が逮捕されるという事件まで発生した。また神奈川県鎌倉市では、観光業促進のために民泊を増やした結果、騒音やごみ捨てなどの被害が出ており、静かさをモチーフにしている観光業に悪影響を 与えている。民泊新法はホストには必要最小限の規制のみ課したため今後他のシェアリングエコノミーの規制のひな型ともなり得る。それだけでなく、適度な規制が闇民泊の抑制になり、質の良い民泊に増加に繋げられる。

 

・規制を撤廃することで、ホテルや旅館の既得権益を侵害することとなる。観光庁のデータによると、訪日外国人観光客の一人当たり費目別旅行支出の宿泊料金の項目について、民泊の利用者の支出が非利用者よりも約5,000円低いことが分かる。また、今後訪日外国人観光客数が増加することを考慮すると、規制を撤廃し旅行客に民泊の利用を促すより、既存または新規のホテルを利用してもらうことで、より多くの経済効果をもたらすと考えられる。

 

・新法の規制緩和には180日規制の撤廃だけでなく設備要件の緩和も含まれているので、民泊が普及するにつれて粗悪な民泊の絶対数も増えてしまうと言える。そしてこの粗悪な民泊に当たった外国人により、日本が観光地としてのイメージダウンと風評被害を被り観光客数の低下という影響を受ける可能性がある。これによって民泊の普及は観光立国化を推進し現在の約2,400万人から2020年で4,000万人のインバウンドを目指す日本にとっては大きな打撃となり得る。

否定派の代替案


・現在、ホテルの稼働率は東京、大阪で約7割、北海道、沖縄では約6割である。確かに、東京オリンピックの時には宿泊施設が不足するという予測もあるが、計算上残りの未稼働分も活用すれば十分東京オリンピック時も対応可能なため、代案として現在あるホテルの活性化を挙げる。

 

・東京2020開催時とその後とに場合分けして代替策を提示する。まず、短期間に集中して外国人が訪れる東京2020の期間中は、ホテルシップやレジャーホテルの一般宿泊施設化のように既存の宿泊施設を利用することによって宿泊施設の不足を補うことを企図する。さらに、東京2020後は、国内のホテル・旅館で客室稼働率の高い傾向がみられる11都府県からその他地域の宿泊施設への誘客・分散を行うことで、地域間の稼働率を適正に分配する。それに伴い、地方のホテル・旅館の周辺産業を巻き込んだ一定の経済効果が期待できる。

 

・オリンピック開催に伴うホテル不足は民泊の規制緩和を実施せずとも、既存の宿泊施設の活用で解決できると考えられる。2020年のホテル客室数不足は上振れしても最大4,000部屋と試算されている。この高々4,000部屋をカバーするために民泊の規制緩和を行い民泊のキャパシティを増やすのではなく、東アジア・東南アジア圏を往来しているクルーズ船の使用頻度を上げることを提案する。クルーズ船による入国者数は2013年に約20万人、2016年に約210万人と3年間で約10.5倍に増加しているので、非常に成長しているサービスであると言える。クルーズ船を増便すれば規制緩和により民泊を普及させなくともオリンピック開催期の宿泊需要はまかない得るということを主張する。

所感


今の日本では宿泊施設が足りておらず、民泊が必要であることは事実です。しかし、民泊導入には様々な弊害があることもまた事実です。ここで頭ごなしに「民泊の導入は日本にとって有益となる」と考えるのではなく、一度根本に立ち返ってみて日本の現状を再確認して考察する必要性を感じました。日本の社会音大において、ある問題を考えるときに一点に集中するのではなく、俯瞰して様々な視点から勘える必要性について理解する良い機会となりました。

文責:秋山 諒丞